2006年 03月 31日
バンドジャーナル誌2004年2月号掲載 |
「全日本吹奏楽コンクール」自由曲集計一覧
真冬のレパートリー研究2004
という特集で掲載されました(バンドジャーナル誌Webはこちら)。
このブログの読者の方に、「今コンクールの自由曲と課題曲を決めているのですが、自由曲が全然決まりません。もしよかったら、ブログでお薦めの曲を紹介して下さい」とのメールを頂いたので、こちらにも載せておきます。
①2年前の原稿である(やや時代遅れ)
②1月に発売された号に掲載されたものである(時期的に、“オフシーズン”のための曲選びということも想定している)
③「小編成バンド向けというコンセプトで」という依頼を受けて書いたものである
という点を踏まえた上で読んで下さい。皆さんの選曲の一助になれば幸いです。
「何ができるか」ではなく、「何がしたいか」が大事
~小編成におけるレパートリー考察~
編成の大小にかかわらず、スクールバンドにとってこのシーズンのレパートリー選びは非常に重要です。まずは、私なりに小編成向きで、なおかつ上級生引退後のスクールバンドにも難易度的に取り入れやすいと思われる曲を紹介してみたいと思います。
●オリジナル作品
■フィリップ・スパーク
《シャローム!/Shalom!》【グレード2.5+/演奏時間約10分/Anglo Music】
スパークの新しい作品で、ヴァン=デル=ローストの名曲『リクディム』を簡単&シンプルにした感じ。スパークにしては技術的に平易に書かれていて、そういう意味でも貴重なレパートリーだと思います。ユニゾンやオクターヴでの音の重なりが多く、編成の上でも15~20人、うちPerc.は2人いれば充分演奏可能です。“シャローム”とはユダヤ人の使うヘブライ語で“さようなら”の意。急・緩・急の3つの楽章からなり、それぞれユダヤ教信仰の宗教儀式を音楽で表しているそうですが、堅苦しい雰囲気はなく音楽としてはとても明快です。イスラエル音楽の持つ独特の雰囲気は演奏効果満点で、特に終楽章の盛り上がりは、このグレードの曲とは思えないほど素晴らしいと思います。
■ジェームズ・スウェアリンジェン
《勝利の時に/In Times of Triumph》【グレード3/演奏時間約5分30秒/Barnhouse】
言わずと知れたスウェアリンジェンの昨年の新譜で、バーンハウス社の「コンサート・バンド・シリーズ」の1曲。バーンハウス社なので譜面も入手しやすいと思われます。まだあまり演奏される機会が無いようですが、近年のスウェアリンジェンのヒット作『春の喜びに』と同様の佳作だと思います。Trp.とPerc.は一定の実力が要求されますが、編成的には15~20人、うちPerc.は最低3人いれば演奏可能です。急・緩・急の構成とシンコペーションリズムといういつものスタイルで書かれてはいますが、音楽的にはきちんとした内容を持っていますし、長い終結部はシンコペーションのリズムから離れ、ケルト音楽風(作曲者自身も「アイルランド音楽を意識した」とノートに書いています)の完全音程のハーモニーとTom-Tomが印象的な、非常に感銘度の高いものとなっています。
■ヤン・ヴァン=デル=ロースト
《アントワープ賛歌/Hymnus Antverpiae》【グレード2/演奏時間約4分30秒/De Haske】
これも有名なヴァン=デル=ローストの作品。曲自体も非常に有名ですが、このシーズンにじっくり腰を据えてサウンド作りをするにはもってこいのコラールなので、あえて紹介します。この曲の最大の利点は、パートが4つしかない(高音部・中高音部・中低音部・低音部)ということ。極端に言えば、Fl.・Tp.・Tb.・B.Sax.各1人なんていう編成でも演奏が可能だということです。それぞれのパートで移調楽器用の楽譜も用意されていますし、バンドの編成や実力に合わせて工夫することも容易です。なんと言っても、声部が4つしかないとは思えない高い音楽性が魅力です。録音も多数あるので、是非トレーニングという意味でも取り入れてみてください。
●編曲作品
■ガブリエル・ピエルネ/山本教生編
《「私の子供たちのアルバム」より鉛の兵隊の行進、守護天使の夜、昔の歌、ファランドール》【グレード2.5/演奏時間合計10分30秒/アコード出版】
原曲はピアノ曲で、それぞれマーチ、コラール、速い3拍子のメロディー、速い2拍子の舞曲のスタイルで書かれています。この作品も低い難易度のわりに演奏効果が高く、音楽的にも明快で内容がしっかりしているのが特徴。守護天使の夜はサウンドトレーニングに最適ですし、ファランドールはややTp.に実力が要求されるとはいえ、とてもかっこ良いのでおすすめです。アコード出版からは、この曲の他にも小編成バンド向けのオリジナル&編曲作品やアンサンブル譜が多数出版されており、ある意味で小編成バンドの救世主とも言うべき出版社だと思います。見やすいWebサイト(日本語で作られているということが一番助かる(笑)。海外の出版社のサイトにも日本語ページを作って欲しい!)も完備されているので、参考にしてみてはいかがでしょうか?
■マルコム・アーノルド/小峰章裕編
《バレエ音楽「スウィーニー・トッド」セレクション/Sweeney Todd Suite》【演奏時間約10分/未出版】
未出版なのですが、実力のある小編成バンドにおすすめです。「スウィーニー・トッド」とはロンドンの都市伝承を題材にした物語で、ミュージカルや映画にもなっています。かなり残酷なストーリーなのですが、戯曲風に作られたバレエのための音楽ということもあってか、そこまでシリアスな雰囲気はありません。前半のアーノルドらしい描写性と、後半のおどけた明るさの対比がとても面白く、コンクールの自由曲としてももってこいですし、同じアーノルドの交響曲などよりは演奏会向きだと思います。編成としては30人、うちPerc.は5人で演奏可能です。今年度の全日本吹奏楽コンクール大学の部で、埼玉大学がこの曲の大編成ヴァージョンを演奏していますが、音源としては充分参考になると思います。昨今アーノルドの作品は、日本の吹奏楽界において欠かすことの出来ないレパートリーとなりましたが、その意味でももっと演奏される機会が増えて欲しい曲の1つです。
最後に、小編成におけるレパートリーについて、私の考えを述べたいと思います。
小編成におけるレパートリーを考える時に、少ない人数で「何ができるか(受動的な考え方)」だけではなく、この人数なりに「何がしたいか(能動的な考え方)」があることも大事だと思います。言い換えると、やれる編成の曲をひたすら探すだけではなく、やりたい曲をどうすれば限られた編成でやることが出来るかという考え方を、小編成バンドの指導者はもっと持つべきなんじゃないか?ということです。
どうしても、「編成上指定されている楽器が無い…」とか、「この人数では原曲の雰囲気が出せない…」などと考えてしまいますが、その“縛り”とも言える感覚を捨て去る必要があると思います。編成上指定されている楽器が全て揃っていなくては、その曲を演奏してはいけないのかといえば、そんなことは無いと思いますし、CDとなって売られている原曲の演奏の雰囲気そのままに、その曲を演奏する必要も無いのです。そういう意味で、小編成バンドのレパートリーを考える時、ある種の「勇気」が必要となってくるように思うのです。
この間、新幹線の待合ロビーで時間を潰していた時のことです。前にある大画面モニターでクラシック音楽が放送されていて、最初は何気なくボーっと眺めていたのですが、よく見ると(聴くと)びっくり!ベートーヴェンの「第9」の終楽章をなんと弦楽四重奏で、しかも、少ない人数とはいえきちんと合唱までつけて演奏しているのです!そして、その演奏がとても素晴らしいことにまたびっくり!!まるで雷に打たれたかのように、「大事なのはこの考え方だ!」と感じました。
当然ですが、その演奏においてはベートーヴェンの書いたすべての音は鳴っていませんでした。けれども、それは誰がどう聴いても「第9」でしたし、活き活きとした演奏が繰り広げられるそのステージは、編成が小さいとか原曲の雰囲気と違うとか、そんなことを微塵も感じさせない魅力溢れるものでした。出発時間が迫り、もっと観ていたい気持ちを振り払って待合ロビーを後にしましたが、その時私はとてもワクワクした気持ちになっていました。いまやスクールバンドの大多数、つまりは日本の吹奏楽団の大多数は小編成です。私を含め、小編成バンドの指導者がいわゆる“縛り”から今よりも開放され、真に柔軟にレパートリーということを考え始めた時、小編成バンドのためのレパートリーは無限に増えていく可能性を持つでしょうし、そのことは、吹奏楽という世界そのものをさらに魅力的にするのではないか?という風に考えるのです。
(磯崎政徳/バンドディレクター)
真冬のレパートリー研究2004
という特集で掲載されました(バンドジャーナル誌Webはこちら)。
このブログの読者の方に、「今コンクールの自由曲と課題曲を決めているのですが、自由曲が全然決まりません。もしよかったら、ブログでお薦めの曲を紹介して下さい」とのメールを頂いたので、こちらにも載せておきます。
①2年前の原稿である(やや時代遅れ)
②1月に発売された号に掲載されたものである(時期的に、“オフシーズン”のための曲選びということも想定している)
③「小編成バンド向けというコンセプトで」という依頼を受けて書いたものである
という点を踏まえた上で読んで下さい。皆さんの選曲の一助になれば幸いです。
「何ができるか」ではなく、「何がしたいか」が大事
~小編成におけるレパートリー考察~
編成の大小にかかわらず、スクールバンドにとってこのシーズンのレパートリー選びは非常に重要です。まずは、私なりに小編成向きで、なおかつ上級生引退後のスクールバンドにも難易度的に取り入れやすいと思われる曲を紹介してみたいと思います。
●オリジナル作品
■フィリップ・スパーク
《シャローム!/Shalom!》【グレード2.5+/演奏時間約10分/Anglo Music】
スパークの新しい作品で、ヴァン=デル=ローストの名曲『リクディム』を簡単&シンプルにした感じ。スパークにしては技術的に平易に書かれていて、そういう意味でも貴重なレパートリーだと思います。ユニゾンやオクターヴでの音の重なりが多く、編成の上でも15~20人、うちPerc.は2人いれば充分演奏可能です。“シャローム”とはユダヤ人の使うヘブライ語で“さようなら”の意。急・緩・急の3つの楽章からなり、それぞれユダヤ教信仰の宗教儀式を音楽で表しているそうですが、堅苦しい雰囲気はなく音楽としてはとても明快です。イスラエル音楽の持つ独特の雰囲気は演奏効果満点で、特に終楽章の盛り上がりは、このグレードの曲とは思えないほど素晴らしいと思います。
■ジェームズ・スウェアリンジェン
《勝利の時に/In Times of Triumph》【グレード3/演奏時間約5分30秒/Barnhouse】
言わずと知れたスウェアリンジェンの昨年の新譜で、バーンハウス社の「コンサート・バンド・シリーズ」の1曲。バーンハウス社なので譜面も入手しやすいと思われます。まだあまり演奏される機会が無いようですが、近年のスウェアリンジェンのヒット作『春の喜びに』と同様の佳作だと思います。Trp.とPerc.は一定の実力が要求されますが、編成的には15~20人、うちPerc.は最低3人いれば演奏可能です。急・緩・急の構成とシンコペーションリズムといういつものスタイルで書かれてはいますが、音楽的にはきちんとした内容を持っていますし、長い終結部はシンコペーションのリズムから離れ、ケルト音楽風(作曲者自身も「アイルランド音楽を意識した」とノートに書いています)の完全音程のハーモニーとTom-Tomが印象的な、非常に感銘度の高いものとなっています。
■ヤン・ヴァン=デル=ロースト
《アントワープ賛歌/Hymnus Antverpiae》【グレード2/演奏時間約4分30秒/De Haske】
これも有名なヴァン=デル=ローストの作品。曲自体も非常に有名ですが、このシーズンにじっくり腰を据えてサウンド作りをするにはもってこいのコラールなので、あえて紹介します。この曲の最大の利点は、パートが4つしかない(高音部・中高音部・中低音部・低音部)ということ。極端に言えば、Fl.・Tp.・Tb.・B.Sax.各1人なんていう編成でも演奏が可能だということです。それぞれのパートで移調楽器用の楽譜も用意されていますし、バンドの編成や実力に合わせて工夫することも容易です。なんと言っても、声部が4つしかないとは思えない高い音楽性が魅力です。録音も多数あるので、是非トレーニングという意味でも取り入れてみてください。
●編曲作品
■ガブリエル・ピエルネ/山本教生編
《「私の子供たちのアルバム」より鉛の兵隊の行進、守護天使の夜、昔の歌、ファランドール》【グレード2.5/演奏時間合計10分30秒/アコード出版】
原曲はピアノ曲で、それぞれマーチ、コラール、速い3拍子のメロディー、速い2拍子の舞曲のスタイルで書かれています。この作品も低い難易度のわりに演奏効果が高く、音楽的にも明快で内容がしっかりしているのが特徴。守護天使の夜はサウンドトレーニングに最適ですし、ファランドールはややTp.に実力が要求されるとはいえ、とてもかっこ良いのでおすすめです。アコード出版からは、この曲の他にも小編成バンド向けのオリジナル&編曲作品やアンサンブル譜が多数出版されており、ある意味で小編成バンドの救世主とも言うべき出版社だと思います。見やすいWebサイト(日本語で作られているということが一番助かる(笑)。海外の出版社のサイトにも日本語ページを作って欲しい!)も完備されているので、参考にしてみてはいかがでしょうか?
■マルコム・アーノルド/小峰章裕編
《バレエ音楽「スウィーニー・トッド」セレクション/Sweeney Todd Suite》【演奏時間約10分/未出版】
未出版なのですが、実力のある小編成バンドにおすすめです。「スウィーニー・トッド」とはロンドンの都市伝承を題材にした物語で、ミュージカルや映画にもなっています。かなり残酷なストーリーなのですが、戯曲風に作られたバレエのための音楽ということもあってか、そこまでシリアスな雰囲気はありません。前半のアーノルドらしい描写性と、後半のおどけた明るさの対比がとても面白く、コンクールの自由曲としてももってこいですし、同じアーノルドの交響曲などよりは演奏会向きだと思います。編成としては30人、うちPerc.は5人で演奏可能です。今年度の全日本吹奏楽コンクール大学の部で、埼玉大学がこの曲の大編成ヴァージョンを演奏していますが、音源としては充分参考になると思います。昨今アーノルドの作品は、日本の吹奏楽界において欠かすことの出来ないレパートリーとなりましたが、その意味でももっと演奏される機会が増えて欲しい曲の1つです。
最後に、小編成におけるレパートリーについて、私の考えを述べたいと思います。
小編成におけるレパートリーを考える時に、少ない人数で「何ができるか(受動的な考え方)」だけではなく、この人数なりに「何がしたいか(能動的な考え方)」があることも大事だと思います。言い換えると、やれる編成の曲をひたすら探すだけではなく、やりたい曲をどうすれば限られた編成でやることが出来るかという考え方を、小編成バンドの指導者はもっと持つべきなんじゃないか?ということです。
どうしても、「編成上指定されている楽器が無い…」とか、「この人数では原曲の雰囲気が出せない…」などと考えてしまいますが、その“縛り”とも言える感覚を捨て去る必要があると思います。編成上指定されている楽器が全て揃っていなくては、その曲を演奏してはいけないのかといえば、そんなことは無いと思いますし、CDとなって売られている原曲の演奏の雰囲気そのままに、その曲を演奏する必要も無いのです。そういう意味で、小編成バンドのレパートリーを考える時、ある種の「勇気」が必要となってくるように思うのです。
この間、新幹線の待合ロビーで時間を潰していた時のことです。前にある大画面モニターでクラシック音楽が放送されていて、最初は何気なくボーっと眺めていたのですが、よく見ると(聴くと)びっくり!ベートーヴェンの「第9」の終楽章をなんと弦楽四重奏で、しかも、少ない人数とはいえきちんと合唱までつけて演奏しているのです!そして、その演奏がとても素晴らしいことにまたびっくり!!まるで雷に打たれたかのように、「大事なのはこの考え方だ!」と感じました。
当然ですが、その演奏においてはベートーヴェンの書いたすべての音は鳴っていませんでした。けれども、それは誰がどう聴いても「第9」でしたし、活き活きとした演奏が繰り広げられるそのステージは、編成が小さいとか原曲の雰囲気と違うとか、そんなことを微塵も感じさせない魅力溢れるものでした。出発時間が迫り、もっと観ていたい気持ちを振り払って待合ロビーを後にしましたが、その時私はとてもワクワクした気持ちになっていました。いまやスクールバンドの大多数、つまりは日本の吹奏楽団の大多数は小編成です。私を含め、小編成バンドの指導者がいわゆる“縛り”から今よりも開放され、真に柔軟にレパートリーということを考え始めた時、小編成バンドのためのレパートリーは無限に増えていく可能性を持つでしょうし、そのことは、吹奏楽という世界そのものをさらに魅力的にするのではないか?という風に考えるのです。
(磯崎政徳/バンドディレクター)
by ISOZAKI_Masanori
| 2006-03-31 06:29
| 1. 吹奏楽