2005年 05月 27日
バンドジャーナル誌2005年4月号掲載 |
<少人数バンドに学ぶ>
新入生を3ヶ月で戦力にする方法
という特集で掲載されました(バンドジャーナル誌Webはこちら)。
ここ数年、色々な方に質問を受けます。曰く、「どうやったら、新入生を夏までの間に完璧にできたのですか?」
んんん?!一体、どこのバンドのどの新入生が「完璧」だったのでしょう。当たり前ですが、小学校での経験のない初心者の新入生を3ヶ月で完璧にするなんていうことは、絶対に不可能です。でも、工夫次第では十分「戦力」にすることはできます。以下、新入生の入部からコンクール本番まで、私が試してきたことのほんの一部を、時間の流れを追って書いてみたいと思います。
GW明け ≪入部・新入生歓迎会≫
~全員がレギュラーになれるのは吹奏楽部だけ~
上級生による演奏、レクリエーション、前年度のコンクール及び定期演奏会のビデオ鑑賞などを行いますが、私と上級生達が一番伝えたいことは、「今日この瞬間から君達も全員レギュラーだよ。おめでとう!!」
5月上旬 ≪パート決め≫
~まずはパーカッション~
まずは1年生全員にパーカッションを練習させてみて、将来的には他パートにするつもりの子でも、適正がある場合はコンクールが終わるまでパーカッションをやってもらいます。クラリネットでそこそこの音を出すには1年近くかかりますが、パーカッションであれば1~2ヶ月で何とかなります。ちなみに、2003年の全国大会はパーカッション全員1年生で出場しました。
5月中旬 ≪本格練習開始≫
~大きく!大きく!大きく!~
ロングトーンから始めますが、とにかく大きな音が出せることを目指します。音程・音色のことは全く考えさせませんし、多少力んでしまっても仕方ありません。フォームはとりあえず犠牲にします(!)。目の前にある空気を思いっきり吸って、どれだけたくさん楽器の中に送り込めるかというただその一点に集中させます。腹式呼吸という言葉ももちろん使いませんが、身体の力を抜いた方がよりたくさんの息を使えるということを、1年生自身が自然に気付くよう指導します。
~総あたり指導~
上級生全員がどのパートの1年生をも指導するようにします。相手は初心者ですから、アパーチュアがどうとかレジスターキーがどうだとか、専門的な知識がなくても充分指導できます。少人数バンドの場合、上級生が休んでしまうとそのパートの1年生がほったらかしになってしまうということが起こり得るので、それを防ぐために始めたのですが、アンサンブル力が何より大切な少人数バンドにおいては、アンサンブルをする上で必要不可欠なチームワーク作りという面でも絶大な効果がありました。
6月中旬 ≪新入生ソロコンサート≫
~拍手喝采?!~
ごく簡単とはいえ、ピアノ伴奏付きのソロ曲を吹く本番を経験させます。観客には保護者・OB・関係者を総動員して、上級生には全員に講評を書かせます。1年生にとっては緊張の極限での本番となりますが、コンクールが初本番という流れは避けるべきだと思いますし、何より、演奏が終わった時に湧き起こる大きな拍手は、1年生に喜びと自信を与えてくれます。観客には、どんな演奏であろうと、それが終われば力の限り拍手をするよう事前にお願いしておくのは言うまでもありません。バラエティー番組の収録ではありませんが、本番前に観客に拍手の練習をしてもらったこともあります(笑)。
6月下旬 ≪合奏参加開始≫
~スペシャル譜面作りがポイント~
ソロコンサートは、1年生の「研修期間」の終わりを意味します。閉会式では、上級生1人1人が書いた講評と一緒に、コンクールで演奏する曲の譜面を与えます。このときの譜面は、私が特別にアレンジした物を“○○(1年生の名前)スペシャル”譜面として、参考音源と共に立派な封筒に入れて仰々しく手渡します。翌日から、1年生達は必死でその譜面を練習し始めます。そうなれば、次回の合奏からは1年生も参加することになります。時を同じくして、朝練習の基礎合奏にも参加させます。
7月中旬 ≪暑くて熱い合奏≫
~学年関係なし!みんなで高めあおう!~
ここからは、あえて1年生と上級生を分けて考えません。「先生は私達と上級生を同じ目で見ている」と感じさせることはとても重要です。特別扱いしないということはシビアではありますが、同時に1年生達がレギュラーとしての自覚と誇りを持つことにつながります。この時期に、見学に来てくれた方などが合奏を見て、「誰が何年生だか分からない」なんて感想を言ってくれればしめたものです。とはいえ、初心者は初心者。合奏で最低限チェックするポイントをいくつか箇条書きにしてみます。
●姿勢は良いか?(姿勢ならあなたも今すぐ日本一!)
●大きな音量で吹くことを忘れていないか?(合奏だとどうしてもビビってしまいます)
●とんでもない音程で吹いていないか?(無理だったらすぐ音を変える)
●テンポの変わり目をきちんと理解しているか?(rit.やaccel.などは1年生には難しい)
●楽章間や長休符の時の挙動がおかしくないか?
例え話でまとめます。
私達料理人(オーケストラ業界では、首席指揮者のことをシェフといいますが)は、長年豊富な食材を更に厳選して、贅沢に料理を作ってきました。しかし、苦労せずに大量の食材を調達できた良い時代は、とっくに過去のものになってしまいました。真っ赤に熟したトマトが美味しいのは当たり前です。だからといって、青いトマトが食べられない訳ではありません。青いトマトや硬いアボカドをいかに美味しく料理するかは、我々シェフの工夫と腕次第だと思うのです。
新入生を3ヶ月で戦力にする方法
という特集で掲載されました(バンドジャーナル誌Webはこちら)。
ここ数年、色々な方に質問を受けます。曰く、「どうやったら、新入生を夏までの間に完璧にできたのですか?」
んんん?!一体、どこのバンドのどの新入生が「完璧」だったのでしょう。当たり前ですが、小学校での経験のない初心者の新入生を3ヶ月で完璧にするなんていうことは、絶対に不可能です。でも、工夫次第では十分「戦力」にすることはできます。以下、新入生の入部からコンクール本番まで、私が試してきたことのほんの一部を、時間の流れを追って書いてみたいと思います。
GW明け ≪入部・新入生歓迎会≫
~全員がレギュラーになれるのは吹奏楽部だけ~
上級生による演奏、レクリエーション、前年度のコンクール及び定期演奏会のビデオ鑑賞などを行いますが、私と上級生達が一番伝えたいことは、「今日この瞬間から君達も全員レギュラーだよ。おめでとう!!」
5月上旬 ≪パート決め≫
~まずはパーカッション~
まずは1年生全員にパーカッションを練習させてみて、将来的には他パートにするつもりの子でも、適正がある場合はコンクールが終わるまでパーカッションをやってもらいます。クラリネットでそこそこの音を出すには1年近くかかりますが、パーカッションであれば1~2ヶ月で何とかなります。ちなみに、2003年の全国大会はパーカッション全員1年生で出場しました。
5月中旬 ≪本格練習開始≫
~大きく!大きく!大きく!~
ロングトーンから始めますが、とにかく大きな音が出せることを目指します。音程・音色のことは全く考えさせませんし、多少力んでしまっても仕方ありません。フォームはとりあえず犠牲にします(!)。目の前にある空気を思いっきり吸って、どれだけたくさん楽器の中に送り込めるかというただその一点に集中させます。腹式呼吸という言葉ももちろん使いませんが、身体の力を抜いた方がよりたくさんの息を使えるということを、1年生自身が自然に気付くよう指導します。
~総あたり指導~
上級生全員がどのパートの1年生をも指導するようにします。相手は初心者ですから、アパーチュアがどうとかレジスターキーがどうだとか、専門的な知識がなくても充分指導できます。少人数バンドの場合、上級生が休んでしまうとそのパートの1年生がほったらかしになってしまうということが起こり得るので、それを防ぐために始めたのですが、アンサンブル力が何より大切な少人数バンドにおいては、アンサンブルをする上で必要不可欠なチームワーク作りという面でも絶大な効果がありました。
6月中旬 ≪新入生ソロコンサート≫
~拍手喝采?!~
ごく簡単とはいえ、ピアノ伴奏付きのソロ曲を吹く本番を経験させます。観客には保護者・OB・関係者を総動員して、上級生には全員に講評を書かせます。1年生にとっては緊張の極限での本番となりますが、コンクールが初本番という流れは避けるべきだと思いますし、何より、演奏が終わった時に湧き起こる大きな拍手は、1年生に喜びと自信を与えてくれます。観客には、どんな演奏であろうと、それが終われば力の限り拍手をするよう事前にお願いしておくのは言うまでもありません。バラエティー番組の収録ではありませんが、本番前に観客に拍手の練習をしてもらったこともあります(笑)。
6月下旬 ≪合奏参加開始≫
~スペシャル譜面作りがポイント~
ソロコンサートは、1年生の「研修期間」の終わりを意味します。閉会式では、上級生1人1人が書いた講評と一緒に、コンクールで演奏する曲の譜面を与えます。このときの譜面は、私が特別にアレンジした物を“○○(1年生の名前)スペシャル”譜面として、参考音源と共に立派な封筒に入れて仰々しく手渡します。翌日から、1年生達は必死でその譜面を練習し始めます。そうなれば、次回の合奏からは1年生も参加することになります。時を同じくして、朝練習の基礎合奏にも参加させます。
7月中旬 ≪暑くて熱い合奏≫
~学年関係なし!みんなで高めあおう!~
ここからは、あえて1年生と上級生を分けて考えません。「先生は私達と上級生を同じ目で見ている」と感じさせることはとても重要です。特別扱いしないということはシビアではありますが、同時に1年生達がレギュラーとしての自覚と誇りを持つことにつながります。この時期に、見学に来てくれた方などが合奏を見て、「誰が何年生だか分からない」なんて感想を言ってくれればしめたものです。とはいえ、初心者は初心者。合奏で最低限チェックするポイントをいくつか箇条書きにしてみます。
●姿勢は良いか?(姿勢ならあなたも今すぐ日本一!)
●大きな音量で吹くことを忘れていないか?(合奏だとどうしてもビビってしまいます)
●とんでもない音程で吹いていないか?(無理だったらすぐ音を変える)
●テンポの変わり目をきちんと理解しているか?(rit.やaccel.などは1年生には難しい)
●楽章間や長休符の時の挙動がおかしくないか?
例え話でまとめます。
私達料理人(オーケストラ業界では、首席指揮者のことをシェフといいますが)は、長年豊富な食材を更に厳選して、贅沢に料理を作ってきました。しかし、苦労せずに大量の食材を調達できた良い時代は、とっくに過去のものになってしまいました。真っ赤に熟したトマトが美味しいのは当たり前です。だからといって、青いトマトが食べられない訳ではありません。青いトマトや硬いアボカドをいかに美味しく料理するかは、我々シェフの工夫と腕次第だと思うのです。
by ISOZAKI_Masanori
| 2005-05-27 10:40
| 1. 吹奏楽